バイオフォトン(biophoton;生物フォトン)とは,生物がその生命活動に伴って放射している極めて弱い自発的発光です。生体内での酸化的代謝過程における生体物質の化学的励起に主に起因するものであり,その発光強度は10-16 W/cm2(〜103 photon/s・cm2)程度以下の紫外域から可視,近赤外波長領域の発光です。生物の生命活動や各種生理作用に付随して観測される発光ですが,ホタルや発光バクテリアなどの生物発光として知られている現象とは区別されます。生物発光はルシフェリン-ルシフェラーゼ反応として知られている酵素反応に基づいた,ある特定の発光代謝機構や発光器官を有する一部の生物種にみられる発光です。それに対しバイオフォトンは,通常の生化学反応過程で生じる活性酸素種やフリーラジカルなどを主にその起源とし,それらによる生体構成物質の酸化的修飾過程における励起分子の生成に由来するものです。バイオフォトンは生物種によらず生物一般において普遍的に観測されます。図1は,バイオフォトンの発光強度レベルを目でみることのできる光のレベルと比較して表したものです。 | ||||||||||||
図1 バイオフォトンの発光強度と検出方法
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バイオフォトンは細胞内呼吸やエネルギー代謝過程などの生理的機能と密接に関連していることがわかっています。また,内因的・外因的に生体内で発生した活性酸素種による酸化作用と,それに対する抗酸化作用とのバランス関係が酸化側に崩れた状態を「酸化的ストレス状態」と呼びますが,酸化的ストレスに起因する各種疾患とバイオフォトンの関連がこれまでに知られています。発光メカニズムは,活性酸素が関与したタンパク質のアミノ酸残基や,不飽和脂肪酸核酸,DNAなど生体構成物質の酸化過程におけるフリーラジカルの生成とこれにより形成された酸素化中間体,あるいはその電荷分離を経て生起する励起状態,またさらに蛍光性物質へのそのエネルギー移行などがメカニズムとして知られています。あるいはまた活性酸素種である励起一重項酸素分子もバイオフォトンの発光種として推定されています。しかし,このようにすべての動植物から微生物にわたり,ミクロからマクロの生体系の階層構造各レベルにおいて協同的に生ずる生物フォトン発光現象のメカニズムは,複雑多岐にわたるためその全貌についてはまだ解明されていません。図2は,酸化的ストレスにより進行する細胞膜等の脂質過酸化過程における発光メカニズムをその一例として示したものです。 | ||||||||||||
図2 酸化的ストレスとバイオフォトン発光メカニズムの一例 (脂質過酸化過程) | ||||||||||||
生物フォトン放出のエネルギー源は代謝すなわち生化学反応にあるため,その検出には外界から一切のエネルギーの投入(励起)を必要としません。すなわち生物フォトンによる計測は非侵襲・非接触という大きな特長をもつ訳です。しかしその一方で,物理・化学的プローブと生体物質との相互作用により生じる分光的特性変化を観測して情報を得る,いわば選択(外部励起)的な計測手法と異なり,様々な原因により自発的に発生する発光現象からいかにして有効な情報を分離・抽出し分析するかが重要な課題である。そのような視点から,われわれは生物フォトンの各種分析手法,分析システムの研究開発を進めてきました。現在は,生物フォトンの時空間特性分析や,分光分析,光子統計・光子相関分析についての新しい計測・分析手法を提起するとともに,これを生体医用計測に応用し新しい診断技術に寄与すべくさまざまな研究を行っています。 |
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【これまでのバイオフォトン研究プロジェクト】
【主な解説論文, 図書】
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